アニメと日々を見聴きする。

アニメの感想/考察中心に、長文を記録しておきたくなった時に記録するブログ。劇伴音楽関連の話題が多いかもしれません。

少女終末旅行の劇伴音楽使用シーンを考える-第5,6話-

本記事では、アニメ「少女終末旅行各話について、サウンドトラックに収録されている劇伴音楽が使われたシーンを軸にして、ストーリーや音楽を振り返ろうと思います。

前回分(第3,4話)こちらから


[注]最終回までのネタバレを含む形で書いているので、まだ全話見ていないという方はご注意ください。


ストーリー・劇伴音楽対応表

第5,6話分の音楽使用シーンをまとめたものです。 f:id:r_lin:20180201183830p:plain

※鳴り始め・鳴り終わりは、各話開始時点から測った時間です。

曲番号は、 TVアニメ『少女終末旅行』オリジナルサウンドトラックに準拠し、
(ディスク番号)_(トラック番号)
を意味します。 例えば"1_5"なら、ディスク1の5曲目を指します。

第5話『「住居」「昼寝」「雨音」』

「優シイ日々」と夢気分

建物の一室で部屋の妄想をするシーンでは、「優シイ日々」が流れました。

優シイ日々

優シイ日々

何もない暗い部屋で腰掛け、「こんなものがあったらいいよねえ」という妄想を進める二人。
ハープの子守唄のような音に包まれて、夢の中の気分に浸るシーンです。
音楽だけでなく、子供の笑い声や鐘の音や画面いっぱいの光。これら全てをもって夢の中へ誘ってくれます。

幸せな現実逃避、とでも言えそうな時間。ひとときの贅沢を味わう二人を見て、こちらも自然と穏やかな気持ちになるシーンでした。

劇伴音楽の伴わない「雨音」

第5話最後の小話である「雨音」は、音楽をテーマにした回ということもあり、劇伴音楽が一切使われませんでした。
その代わり、雨音の奏でる音楽や挿入歌「雨だれの歌」をしみじみと楽しむことができる作りとなっています。

雨だれの歌

雨だれの歌

全体として第5話は、水たまりや水流など冒頭からずっと水の存在が描かれてきました。
ただ「住居」「昼寝」では特に意識の向かないありふれたものとして周りに存在していた水たまりや水滴が、「雨音」の後にはそれまでとは違った響きを持って聞こえてくるのが、この話数の味わいの一つでしょう。
「雨音」の感想は以前ブログに書いたこともあり、ここではこの話題はこれくらいにしておきたいと思います。


それから、チト達が雨宿りしてた建物(がれき)。これって最終回のカメラの記録に映し出されていた自立歩行のロボットですよね…?
私は今回見直していてやっと気付いたのですが、ゾクッとする演出です。
最終回の映像だけではあのロボットがどんな存在か曖昧ですが、「戦争」「破壊」「終焉」、少なくともこういうイメージと結びつきます。

そんなロボットの残骸を映し出しながら、その下では楽しげな音楽が生まれチトとユーリが歌うエンディングスタッフロール。
実はかなり恐ろしくもメッセージ性の強いシーンだったのではないか、と感じます。
このロボットの残骸と「雨だれの歌」が、ここで結びついている事…、これは最終回のEDに「雨だれの歌」が使用されていることにも意味を与えそうです。

詳しくは最終回の時に考えることにしたいです。


なんにせよ、ここにも”停滞の中にも価値を見出していこうよ”という、これまでの話数にも色濃かったメッセージの片鱗が感じられました。

第6話『「故障」「技術」「離陸」』

イシイのフライト、「少女終末旅行-MainTheme-」が断たれる瞬間

イシイが飛行機に乗って旅立つシーンでは、少女終末旅行-MainTheme-」が使われました。

少女終末旅行 -MainTheme-

少女終末旅行 -MainTheme-

前回第4話でも使われましたが、個人的にはこちらのシーンの方が印象に残っています。
「人類最後の飛行かも」「誰かが見ていてくれればそれは歴史になる」といった心に残るセリフが非常に多かった。

飛行機の技術発展の歴史を資料にしながら、イシイもオリジナルの飛行機を作り上げてきた訳ですから、歴史が目撃され記録されることの重要性を誰よりもイシイは理解していたのではないでしょうか。
この話数のラストカット、イシイの図面が設計室の壁に他の資料と共に貼り付けられているのを写すのは、イシイの仕事が歴史のひとつとなった事を示しているのでしょう。

もしチトとユーリが現れなかったら、イシイは人知れず最後の飛行を試みていたのでしょうか。


そしてイシイはフライトへ。飛行機が軌道に乗り、うまく飛び立ったかと思った瞬間にハネが折れ、同時にBGMも一瞬にして霧散する演出がとても印象的です。

MainThemeの中でも、最も朗々とメロディーが歌い上げられている部分が突然ブツッと途切れるため、その衝撃はとても強いです。
特に、BGMの途切れる直前の音は一連の主旋律の中での最高音(最も高い音)になっており、高く高くへ羽ばたいていける…というような希望*1を感じさせます。……が、その希望を持った瞬間を残酷にも断ち切るように音楽が途切れるのです。これはまるで生命が断たれることの音楽面からの暗喩のようにも感じられます。*2
途切れた最高音には深く残響がかかり、その瞬間のチト達の衝撃・時間が止まったような感覚を作り出しています。

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主旋律のみを抜粋して採譜したもの。


音楽の力が縁の下から物語をアシストする、第6話のクライマックスを飾る素晴らしい(と同時にとてもショッキングな)シーンだと感じました。

「心ニ触レテ」と"絶望と仲良くなる"

その後イシイが穏やかな表情で落下していく所では、「心ニ触レテ」が使われています。

心ニ触レテ

心ニ触レテ

イシイが”絶望と仲良くなる”、まさにその瞬間だと思います。
ずっとずっと目標を持って前へ進み続けて来たイシイが、最後の最後で失敗をするという、第3話のカナザワと非常に重なる所のある展開
しかし「心二触レテ」は、”気楽なもんだなあ”と言うイシイの心中を表したかのように、とても穏やかな曲でした。

この曲のシーンの最後には、ユーリの絶望ソングがオーバーラップしてきます。なんとなく、「絶望」というキーワードにポジティブなイメージを持たせてくれるような、そんな終わり方に聴こえます。

こういう所が少女終末旅行独特のメッセージ性だと感じますし、私の好きな部分でもあります。




ということで、今回は少しあっさりめでしたが第5,6話を振り返りました。
今回はやはりMainThemeの使い方が一番印象に残りました。
それではお付き合いいただきありがとうございました。次回へ続く。

*1:このような希望は、直前のユーリの「やったー!」というセリフにも感じられるのではないでしょうか。

*2:この話数での「どこにも行けなければそれこそ絶望だろう?この都市とともに死んでゆくだけだ」というイシイのセリフを鑑みても、フライトの失敗に"死"のイメージが重ねられています。