少女終末旅行 第5話「雨音」についての感想 : 音楽の誕生と、静寂の美
少女終末旅行の第5話の最後のエピソード、「雨音」についての感想です。
この話の魅力は、なんと言っても雨音から生まれる音楽、そして雨音のビートから繋がる特殊EDという演出でしょう。
初めて見たときは、録画を巻き戻してエンドレスリピートで観てしまいました。
この感動を文章として残すべく、2つの点について感想を記しておきたいと思います。
音楽が生まれる瞬間
まずこの話では、音楽が生まれる瞬間がじっくり描かれていました。
ユーリが、ヘルメットに落ちる雨粒の音に魅せられ、次々にいろんなモノを持ってきて音楽が出来上がってく過程がおもしろいですよね。
まず最初にユーリのヘルメットが道具として使われて、そこに雨粒が落ちると一つの音が出来上がります。
そして次に、チトのヘルメットに落ちる雨粒の音も加わり、2つの音が掛け合いを始めます。
ランタンなどを加えていくと、ヘルメットには無かった音程や音色が分かります。
そして最後にたくさんの缶を並べていくと、リズムパターンが生まれるのです。
チト達に聞こえていたのはここまでかもしれませんが、アニメではここにさらにメロディーやハーモニーが加わり、特殊ED「雨だれの歌」の誕生です。
音楽の発明を目の当たりにしているような気分になりました。
実際、チト達にとっては発明そのものでしょう。
一つずつ物を増やすと、音楽の要素も一つずつ積み上がっていく。そんなわくわくするシーンでした。
普段私達がよく聞く音楽は、ギターだったりドラムだったり弦楽器だったり、すでにある楽器によって演奏されますけど、「そっか、雨だって音楽にできるんだ」、と初心に戻りました。
音楽は、チト達の世界に加えられた、今までは無かった新しい彩りです。
雨という自然現象だけでなく、缶などの人間の残した道具を利用して音楽を作るのが、少女終末旅行ならではな気がします。
かつての人間が残した物で何かやろうっていうアイデアは、第2話の「風呂」とか「洗濯」でもありましたしね。
雨上がりの静寂
そしてなにより、この「雨音」のエピソードで一番素晴らしいシーンは、特殊ED「雨だれの歌」の直後の雨上がりシーンだと思います。
なぜなら、音楽の無い静寂を大切にしてくれているからです。
特殊ED直後は、雨が徐々に上がり、缶やヘルメットの奏でるオーケストラは終わりを告げます。
もう雨はなく、まばらに落ちる水滴の音が響きわたります。
しかしチト達は、もう少しここで休んでいこうと言い、雨音の音楽が終わった後もそこで時間を過ごします。
このチト達が楽しんでるのって、音楽の後に残った余韻や静寂そのものですよね。
見てるこちらまで、目を閉じて余韻に浸ってしまうラストシーンです。
音楽を作り上げたからこそ、音楽の無いいつもの静かな世界の魅力に、チト達が気づけたのだと思います。
いつもの世界ってこんなに…、というユーリのセリフ。ここにそんな気持ちが詰まってるような気がします。
少しちゃんとした本の意見を引用すると、音楽にとっての静寂の重要さは、作曲家・芥川也寸志の著書『音楽の基礎』にこう書かれています。
音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。出典 : 『音楽の基礎』 著:芥川也寸志 岩波新書
静寂の美しさを認めた上で、それを上回る新しい美として音楽を作る。
上で述べた「雨音」のラストシーンは、まさにこの考えを体現するようなシーンです。
音楽が止んだ後の静寂の時間が尺を割いてじっくりと描かれているのは、静けさが尊く美しいものである事を認めているからだと思います。
音楽だけでなく静寂の美しさをも描くからこそ、真の意味で”音楽”をテーマにしたエピソードとなると言えるのではないでしょうか。
普段私たちは音楽にあふれた世界に生きています。
街を歩けば店頭で音楽をジャンジャン鳴らして宣伝をする電器屋があり、コンビニに入れば店内放送のBGMが流れているし、電車の中では多くの人がイヤホンで自分の好きな音楽を楽しみ、家に帰ればテレビのニュースやバラエティーからは音楽と共に情報が流れでてきます。
この「雨音」で描かれたような、音楽のない静寂って希少ですよね。
音楽の原点は、「音楽が無いという状態」なのかもしれません。
しかし、どこもかしこも音楽に埋もれた世界で生きていると、それを見失いがちです。
「雨音」は、そんな私達の世界に一石を投じるようなエピソードかもしれません。
終末世界ならではのエピソードとテーマ。改めて、終末には魅力が詰まっています。
静寂、余韻の時間をたっぷり描いてくれた少女終末旅行には、感謝してもしきれません。
まとめ
音楽の無かった世界に、生まれた音楽の彩り。
その音楽が止んだ後に、残る静寂の美しさ。
この切っても切り離せない二つの要素が共存した、「音楽とは何か」を考えさせられるお話でした。
- 作者: 芥川也寸志
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