劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディー〜 感想(ネタバレ有)
先日公開された、「劇場版響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜」の感想です。
※TV版アニメ第二期をサウンドトラックで振り返る感想記事はこちらから。
※ネタバレ感想です。ご注意ください。
自分は響け!ユーフォニアムシリーズのアニメをTV版1,2期、劇場版1作目と追ってきて、今回もご多分に漏れず鑑賞する運びとなりました。
この作品について、TVシリーズ2期を「あすかと久美子を軸に再構築」したと公式HPにもあることから、見る前はTV版の復習をしにいくような心持ちでとらえていました。
しかし実際見てみると、TV版とは異なる「劇場版」の新たな一つの作品ができあがっていました!
感想として、次の二つの点について書いていきたいと思います。
1つは、全てがあすかと久美子に寄り添って作られていた点。2つ目は、劇場の音響をフルに生かして楽しめたという点です。
全てがあすかと久美子の物語に寄り添った作品
公式HPにあった「あすかと久美子を軸に再構築」という文言はまさにその通り。
全てがあすかと久美子を中心に出来上がった作品でした。
「あすかと久美子」に寄り添うオリジナル要素
時系列再構成
特に驚いたのは、あすかと久美子の関係性を辿るという目的のために、物語序盤の大胆な時系列の改変がなされていた事です。
例えば、合宿が関西大会の後に行われていたことになっており、その合宿の中で、久美子が朝霧の中でユーフォニアムを吹く田中あすかを目撃するエピソードを回収します。一方、合宿中に久美子が他の様々な部員と話すシーン、あすかと久美子の話に直接関係のないシーンはカットとなっていました。
序盤に久美子があすかから何か印象を受けるシーンは何に変えても入れたい、という思いがあったように感じます。
結果として、この劇場版はTV版に対するIFストーリーのような立ち位置の作品だという印象を受けました。実際、音響監督さんからキャスト陣へ、「アニメシリーズの響け!ユーフォニアム2は忘れるように」との指示があったと、パンフレットに記載がありました。
新規カット、自分的ベストシーン
新規カットに関しても、あすか本人や、あすかと久美子間の気持ちに関する描写を与えるものが多かったように思いました。
自分的ベストシーンは、全国大会の自由曲演奏シーン、中間部のあすかソロ。
ソロを吹きながらあすかの目に映るのは照明の明かりに揺れる遠い観客席。席の一つ一つは見えないけれど、そのどこかに、父がいる、自分のソロを届けるべき相手がいる。どこの席にいても届くよう、この音よ響け。そんなあすかの気持ちが伝わって来る最高の新規カットでした。
TV版では自由曲の演奏シーンは関西大会まででしたから、全国大会の演奏シーンを描いた劇場版でしかできない演出ですよね!
また、全国大会の会場で久美子が麻美子をみつけてユーフォが好きだと伝えるシーンが無くなり、代わりにあすかが久美子にユーフォが好きか訊き、それに久美子がイエスと答えるシーンが新規カットとして追加されていました。
このシーンは、物語冒頭にあすかから訊かれた「ユーフォが好きか?」という問への答えでした。あすかという人物との関わりを通して、久美子の楽器への思いがどう変わったのか。やはり、「久美子とあすか」が軸にあったからこその新規カットなんだろうな、と思いました。
このように、あすかと久美子の関係を描くことを最優先に取って話が”再構成”されており、そのため非常にストーリーの本筋が追いやすかったように感じました!
あすか,久美子,麻美子の三人に寄り添った劇伴音楽
劇伴音楽に注目しても、「あすかと久美子の物語」が感じられるようになっていたように思えます。というのも、劇伴音楽の鳴るほとんどのシーンが、あすかの気持ち/あすかと久美子の気持ちの往来/麻美子と久美子の気持ちの往来、このどれかに対応するシーンだった気がします。(1回みただけなので正確なことは微妙ですが)
あすかの家族への思いが感じられるシーン、久美子があすかの心中を推しはかるシーン、久美子と麻美子のすれ違い…などなど、物語の軸となる3人の気持ちが動くシーンの数々に沿って、素晴らしい劇伴音楽が盛り上げてくれました。さらに劇場の音響となると、感動もひとしお。
特に、麻美子と久美子が絡むシーンにも印象的に音楽が使われていたと思います。麻美子が、久美子の気持ちをあすかへ届かせる後押しになった存在である事は間違いありません。ですから、「あすかと久美子の物語」でも麻美子と久美子の気持ちのやり取りが大切に描かれていたように感じました。
冒頭のあすかの過去のシーンなど、「響け!ユーフォニアム」のメロディーが流れるシーンが多くありました。劇中のあちこちにこのメロディーが散らばっており、極め付けは一番最後のシーンにTV版9話の河原のシーンを持ってくるという構成。正直、途中「あっ、カットされたか…」と思いました。(思った人も多いのでは?)
最初から最後まで、あすかの「届けたい」という思いを音楽でサポートする演出、最高でした。
このように、劇中の音楽の配置もあすかと久美子二人の関係に寄り添ったものであると感じました。
劇場の音響で楽しめる、迫力と繊細さ
迫力の演奏シーン
なんといっても演奏シーンの魅力がすごかった。いや、すごかった。(語彙力無し)
演奏シーン聴いてきただけでもこのアニメを劇場で見た価値があったなあ〜と思いました。
上でも話題に出した新規カットですが、演奏シーンについてもたんまりありましたね。スタッフの方々ありがとうございます。そしてお疲れ様です。
映画冒頭でいきなり課題曲が流れてきた時には「いや〜そういう作戦できたか〜w」とかなりテンションがあがりました。ここにきてようやく、fullになりましたねプロヴァンスの風!しかし2015年の課題曲が2017年まで息長くアニメで使われるとは…。あと、またシンバルのかっこいいカットがまた一つ増えていたような…
宝島もfullになっていますし、三日月の舞も上で触れたようにカットが増え、盛りだくさんで映画兼演奏会に行ってきたような感じです。
あすかのユーフォ演奏シーンに見る、繊細な音響演出
魅力的な音響演出に気づくことができ、劇場版の力を感じました。
それは上でも言及した、合宿の朝にあすかがユーフォを吹いているのを久美子が目撃するシーン。最初はあすかのユーフォが蝉の合唱に囲まれた中で鳴り響いていますが、蝉の音はだんだん薄らいで行き、最後はあすかのユーフォの音だけがくっきりと劇場に響いていました。
我々観客も最初は蝉に囲まれているようでしたが、徐々にあすかの音だけになっていく体感は、まるで久美子の主観になってあの瞬間を追体験したような気分でした。久美子の意識が徐々にあすかのユーフォだけに惹きつけられていく様の音演出。その遷移の過程がはっきりと感じられるのが、劇場で見る一つの価値だなあと思いました。
この演出、ラストシーンの水管橋でのあすかのユーフォ演奏シーンでも同じだったように記憶しています。ここでも、最初は宇治川のせせらぎや風の音など、川辺に響く環境音の中にあすかのユーフォが響いてるように聞こえていましたが、徐々にユーフォの音以外がフェードアウトしていき、最後には完全にあすかの音だけが鳴り響く世界になりました。
隣で聞いている久美子に聞こえていたであろうピストンの上下の音、息の音、そんな音も聞こえていたような気がします。音楽モノだけあって、やはり音には相当なこだわりを持って作られているな、と感じた瞬間でした。思わず目を閉じて聴きたくなってしまうような時間でした。(映画なので目は閉じられない!)
余談
映画の最後には希美とみぞれの物語の予告映像もながれましたね。今回は徹底的にあすかと久美子の話でしたから、次はこの二人の番!楽しみに待ちたいと思います。
余談ですが、パンフレットの松田さんへのインタビューに、「音楽に明確な視点がある」という発注の際のやりとりが書いてあって、面白いなあと思いました。今回も触れたように、音には相当のこだわりを持って作られている作品だと思いますから、そういう観点で次回は見てみても面白いかもしれないと思いました。
劇場版で見ても、やはりいい作品です。またいくかも…