響け!ユーフォニアム2 第9,10話をサウンドトラックで振り返る-劇伴音楽使用シーンまとめ
テレビアニメ響け!ユーフォニアム2 本編において、
どういうシーンでどのBGMが使われたのか?
を各話ごとに整理し、それに沿って各シーンや曲を振り返るシリーズ記事です。
今回は第9話、第10話を振り返ります。
前回(第8話)はこちらからどうぞ。
次回(第11話、第12話)はこちらからどうぞ。
体育館裏での説得シーンの部分の文章が長くなってしまいました。
第9,10話 ストーリー-サウンドトラック収録曲対応表
今回は第9話「ひびけ!ユーフォニアム」及び第10話「ほうかごオブリガート」です。劇伴使用シーンのまとめは以下の画像のようになりました。
※鳴り始め・鳴り終わりは、各話開始時点から測った時間です。
曲番号は、 TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック「おんがくエンドレス」に準拠し、
(ディスク番号)_(トラック番号)
を意味します。
例えば"1_5"なら、「おんがくエンドレス」のディスク1の5曲目を指します。
[注]Ⅰ_1_28のようにローマ数字のⅠがついた番号は、響け!ユーフォニアム第1期のサウンドトラック「おもいでミュージック」からの使用曲となっています。
第9話では、久美子があすかの家によばれ、あすかの心の内に迫ります。そして第10話はあすか編のクライマックスとなり、体育館裏でのアツい説得シーンは第2期の山場の一つです。
第9話
連れ戻すぞ大作戦と「人生の流転」
夕暮れの教室で、夏紀と久美子が「あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦」について話し合うシーンには、「人生の流転」が使われています。
最初は少しコミカル(とまでは言いすぎかもしれないですが)に会話が進みますが、曲後半に入ると少ししんみりとした空気が漂います。
あすかが久美子を呼んだ理由について、夏紀は”久美子ならなんとかしてくれると期待したのでは”と推測しています。
理由としてあながち間違いではない気もしますが、それ以上に、そこには夏紀本人の久美子への期待が表れているような気もしてしまいます。
そして、あすかの復帰は夏紀がコンクールに出られない事を意味すると久美子が問いかけると、
「私はいいの。来年もあるし」
と夏紀は答えます。
このセリフについては、以前拝見したこちらの記事で詳しく考察がなされておりましたので、引用させていただきます。
(こちらは、劇場版・届けたいメロディーの感想の記事です。)
カエル「では、最後に演出についてもう少し色々と話していこうか」 主「特にいいなぁ、と思ったのは夏紀があすか先輩について話しているシーンで……ユーフォはあすかが出るべきだ、というシーンなんだけれど、そこで『私はいいの』と答えている。 だけれどその表情は窓ガラスで映っているだけで、実際の表情は見えないんだよね。これが『虚像の表情』つまり嘘であるということが透けて見える」 カエル「夏紀だってメンバーに入りたくて必死に練習をしてきたわけだしね……」
『劇場版 響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』感想 より純化した久美子とあすかの関係性に心惹かれる! - 物語る亀
「私はいいの。来年もあるし」という部分にある嘘。引用元の記事の言葉を借りれば、これが『虚像の表情』として窓に写っていると解釈されています。
そして夏紀は、今部にとって良いのはあすかが吹くことである、と続けます。
この時の夏紀の表情はもう窓には写っていません。
これらの夏紀の言葉を聞いた久美子は、カーテンに手をかけます。これは窓に写っていた『虚像の表情』を隠そうと、本心を覗こうとするが故ではないでしょうか。
そんな久美子に対し、「本心だよ」と告げる夏紀。
夏紀の目はまっすぐと久美子を見据えます。
この「本心」は一体どこまでを指すものなのか。私は以下のように感じました。*1
「部全体にとって良いのはあすかが吹く事だという事を本心から認めつつも、一方でじゃあ自分は出なくていいと思えているかといえば、それは嘘になる。」
夏紀にも、複雑な葛藤があったのでしょう。
その上で、"あすかを復帰させる"という、本人にとってはより残酷な選択を以って、夏紀はこの葛藤にケリをつけようとしているのではないでしょうか。*2
そして夏紀の言葉を聞いた久美子は、カーテンから手を離すのです。
振り返ってみると、二人の一挙一動を通してとても繊細な心のやりとりが描かれる名シーンでした。
2人だけの下校時間と「想い出を積み上げる」
あすか宅へ向う途中の道を、あすかと久美子が二人きりで下校するシーンには、「想い出を積み上げる」が使われました。
ピアノの伴奏の上で流れる弦楽器とフルートのメロディーが、日常風景に流れる風のようにさわやかで良いです。
第1期にはなかった、管楽器(フルート)の音の入った劇伴音楽のうちの一つです。
久美子が微妙に気まずさを感じつつも、他愛ない話をしているのが微笑ましいです。
スズメもチュンチュン鳴いて、平和そのものという感じです。
この後香織が後ろから駆けつけると同時にふっと音楽がやんで、香織のいる三人での下校シーンへバトンタッチしていきます。
BGMが無くなり香織が現れてからの下校には、どことなく不穏な空気を感じてしまいます。
例えば、三人が階段を下りていく時の「手すりを挟んであすかと同じ側に久美子/反対側に香織」という構図からは、あすかと香織の心の距離感を感じます。
あすかが香織に対して一線を引いて接しているのがまざまざとわかってしまい、どこか不穏です。
そして、香織があすかの靴紐を結ぶ例のシーンへと繋がっていきます。
ここは明らかに、見てはいけないもののようなまずい雰囲気が漂っています。あすかの顔にかかる影も濃く、表情が見えにくいです。
カラスのカーカー鳴く声も、どこか場面に影を落とします。
同じ下校シーンの中でも、香織がやってくる前後で雰囲気の切り替わりがくっきり分かって面白いです。
久美子が聞いたあすかの「響け!ユーフォニアム」
第9話のラストシーンでは、河原で久美子があすかの吹く「響け!ユーフォニアム」に耳を傾けます。
劇場版の感想記事でも同じことを書きましたが、最初は聞こえていた風の音が止み、次第にあすかのユーフォの音だけにフォーカスされていく過程が、ほんとうに美しいです。
ユーフォの音に耳を傾けて、じっくりと楽しめる名シーンですよね。
どこまでも響いていきそうなユーフォの音の魅力が詰まっています。
映像にはあすかと久美子のいる土手の自然風景がいくつも映し出され、ユーフォが響き渡る空間を美しく彩っています。
その中には水管橋からかなり離れた場所のカットも混じっており、遠く離れた場所までもユーフォの音が響いていく様子が想像されます。*3
音でも映像でも、美しいとしか言いようのないモノを見せてくれるシーンです。(美しい以外に語彙力がないのが悔やまれます…)
第10話
晴香のあすかへの想いと「想い出を積み上げる」
晴香があすかについて語るシーンから、下校する久美子達のシーンまでは再び「想い出を積み上げる」が使われました。
あすかならどうにかしてくれると思っていた、と語る晴香は、あすかにどこかで特別でいて欲しい気持ちを打ち明けます。
あすかの話をしながら英単語帳をめくる香織とノートに地道に書き取り練習をする晴香、それぞれ特徴が出ていてなんかいいですね(笑)
あすかに”特別”でいてほしいと語る晴香が、英単語書き取りという”平凡”な勉強法をやってるのも、なんか示唆的で面白いです。
またこのシーンがあるからこそ、後の体育館裏での久美子の「先輩だってただの高校生なのに」というセリフが効いてくるのだと思います。
晴香はあすかに特別であることを期待する側の人間ですが、久美子だけはあすかが特別であろうとするのを否定し”ただの高校生”である事を認めてくれるわけですよね。
あすかの”特別”に対する、久美子と真反対の晴香のスタンスが、このシーンで提示されていると思います。
でも、私はこの"とことん平凡だけど頑張る部長・晴香"が好きなんですよ!
麻美子の後悔と決意と「吹き抜ける風のように」
麻美子がキッチンで自分の気持ちを久美子に語るシーンでは、「吹き抜ける風のように」が使われました。
この曲、重要なシーンで流れる比率が高いですよね。
合宿所のロビーで夏紀の話を聞くシーン(2話)とか、合宿中の麗奈との布団の中での会話(3話)とか、みぞれと優子の対話(4話)とかもそうです。
大人のふりして親の言う通りに従って、自分の行きたい道を選ばなかった過去への後悔を、麻美子が口にします。
この対話で久美子が麻美子の本当の気持ちを知ったからこそ、あすかの説得に繋がっていくんですね。
二人の目の前にある鍋に心理描写が表れているのも、とても印象的ですよね。
特に、久美子の使っている鍋に火が点火するカットは、後の体育館裏のシーンでも久美子の心のスイッチが入る瞬間として使われていますが、とても好きな描写です。
体育館裏での説得と「特別は孤独なのか」
体育館裏で久美子があすかを説得する山場のシーンです。「特別は孤独なのか」は、ここで初出の曲となります。
弦楽器のメロディーが泣き、ピアノがそれを彩る、展開の劇的な曲です。
テレビシリーズ第2期屈指の名場面でしょう。久美子の物語とあすかの物語が交錯する、まさにその瞬間だと思います。
受け止めきれないほどの想いが、決壊したかのように言葉として溢れ出てくるのを見ると、何度でも涙が出てきます。
自分が辞めるのがベストなんだと、特別であり続け、大人に振る舞おうとするあすかに対し、久美子だけが
「なんで大人ぶるんですか、」
「自分だけが特別だと思い込んで、」
「先輩だってただの高校生なのに!」
と、その”大人な、特別な”在り方を否定する言葉を投げかけてくれたのが、あすかにとって一番大きかったのではないでしょうか。
これまで”特別"で有り続けてきたあすかに、あなたは特別なんかじゃない、普通の高校生でいていいんだ、と久美子だけがその在り方を否定してくれたのですから。
「先輩だってただの高校生なのに!」というセリフと共に、カメラが久美子からあすかへと一歩踏み込む描写があります。
誰も踏み入ってこなかったあすかの領域に、久美子が”否定”によって踏み入った瞬間です。
この時のあすかの表情を見ても、この言葉こそが、あすかの心に響いたのではないかと思います。
そしてここからまだ、あすかの”大人な”在り方を否定する言葉が久美子から流れ出します。
「我慢すればまるく収まるなんてただの自己満足」
「後悔するってわかってる選択肢を選ばないで」
否定と一緒に流れ出るのは、久美子自身の想いです。
「あすか先輩に本番に立って欲しい」
「あのホールで先輩と一緒に吹きたい」
「先輩のユーフォが聞きたい」
久美子が一番伝えたかったこの想いが、一気に決壊して流れ出ます。
あすかのいうとおり、もう”ぐちゃぐちゃ”です。
でも、ぐちゃぐちゃになってでもあすかに立ち向かって行く久美子の姿に、心打たれないはずがありません。
あすかの在り方を否定する言葉は、ほとんど麻美子の言葉のようなものです。
分かったふりして大人のふりして、親の示した”正しい”道を歩いて、結果後悔を残した麻美子の言葉を知っている久美子だけが、あすかの心に言葉を届けることができたのでしょう。
そして、傍観者から当事者へ一歩踏み出す勇気を久美子に与えてくれたのも、
「あんたも後悔のないようにしなさいよ」
という麻美子の言葉でした。
改めてですが、久美子とあすかの物語における麻美子の存在の大きさを感じました。
また、直前の第9話と違い、ここが学校という場所である事が強い意味を持っていると私は思います。
なぜなら、学校というのはあすかを特別とみなす人の目がある場所だからです。
あすかに特別であって欲しいと願う人の例は晴香です。
上で先ほど述べたように、Aパートで「あすかにはどこか特別でいて欲しい」と思う気持ちを晴香は打ち明けています。
そんな学校だからこそ、あすかは大人に振舞って、自分の退部を肯定するような言葉を多く口に出してしまうのだと思います。
例えば、Bパート冒頭の香織と晴香と話すシーンでは、
「滝先生も夏紀で行くって言って、夏紀もそれが良いって話になっている」
「もうふんぎりはついてるから。その分受験頑張るって」
などと発言をしますが、これは共に部活をやめるという選択肢を肯定するものです。
逆に、第9話のあすか宅のシーンを振り返ってみると、こういった自らの退部を肯定する発言は全く見られません。
学校という場所だからこそ、”特別”でいなければいけないという心理になってしまうのではないでしょうか。
大人な対応をして、特別でなければならないと思って、”正しい”在り方を肯定し続け、仮面を被って振舞うあすかがいます。
いわばこのあすかは、第9話で久美子が見たあすかとは別人です。
そんな”仮面のあすか”に対して、ただの高校生でいい、特別じゃなくていいと投げかけるからこそ、劇的で決定的なシーンに仕上がるのだと私は思います。
第9話のあすか宅では成し得ない、学校というシチュエーションの重要さを強く感じます。
「特別は孤独なのか」が流れる前のシーンも含め、原作者からもアニメスタッフからも120%の魅力が注ぎ込まれた忘れられないワンシーンとなりました。
そしてラストカットで不穏な麗奈の表情が映し出され……
そして、次の記事が始まるのです。 -> 第11話、第12話はこちらから
『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック「おんがくエンドレス」
- アーティスト: 松田彬人,北宇治高校吹奏楽部
- 出版社/メーカー: ランティス
- 発売日: 2017/01/11
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