アニメと日々を見聴きする。

アニメの感想/考察中心に、長文を記録しておきたくなった時に記録するブログ。劇伴音楽関連の話題が多いかもしれません。

響け!ユーフォニアム 届けたいメロディーのBDが届いたので再び感想を書く

先日響け!ユーフォニアムのBDが家に届きました。待望ですね。

特典も、新規カットの絵コンテ集がまるごと入っていたりと、結構読み応えがあります。


さて、この映画の感想自体は公開直後に昔書いたのですが、↓

r-lin.hatenablog.com

BDを買って家でゆっくり見ていたら再び書きたくなったので、書いておきたくなった事を徒然なるままに記していきたいと思います。

駅ビルコンサートまでの濃密さ

駅ビルコンサートの「宝島」演奏シーンが前半の物語の大きな山になっていますよね。*1
宝島の演奏シーンもカットが増えて、曲の最後まで聴けるようになったのはやはり嬉しいです。
先ほど言った付録のコンテ集とか見ても、拍数と合わせてカット割がされていたり、緻密な作業なんだな…と感じます。



そしてこの宝島に至るまでの30分ほどの話の濃密さ。改めてすごく良く作られているなと感じます。

この限られた30分で、あすかの「頼れるすごい先輩像」をしっかりと作り上げているんですよね。


学園祭で「こういう時はしっかり息抜きをするように!」という"さすがあすか先輩!"というセリフがあったり、
テューバパートのカンニングブレス問題をキビキビと解決してパートを仕切り、
合宿でも10回通しを物ともしない超人さを見せ。


新規カットを用いたり、場合によってはTV版とは時系列を変えてまで*2あすかの「頼れる先輩像」を積み上げていくためのシーンは逃さず散りばめてゆく。
あすかがどれだけ頼りにされているか、という"特別なあすか像"が濃密に詰め込まれてます。 加えて、どこか冷たいあすかの表情や合宿の朝もやの中での演奏など、後半部に続く伏線も抜け目なく張られていますね。


これがあるからこそ、「あすかは特別じゃないんだ、私たちが支えるんだ」という晴香のスピーチで気持ちが盛り上がるし、心動かされるのでしょう。
小川監督の言葉で言えば、"積み"が足りてるという事なんでしょうね。


やはりTV版を再構成して作る劇場版は、TVでは何話かけてじっくりやれた所を30分程度のうちにやらなければいけないわけです。
そう考えた時、「あすかとはどんな存在か」という所を印象づけるのに尺が足りなくなりそうなものですが、それを感じさせない前半30分の濃密さがあります。

これが、"一本の映画としてわかるように仕上げた"事の一つの側面かもしれないです。

久美子だけがあすかに一歩踏み込める

宝島で一旦のクライマックスを見せ、「あすかだって特別じゃないんだ」「私たちが支えるんだ」という事を共有する部員たち。
既に映画一本分みたような起承転結を見せた盛り上がりなんですが、話はここで終わりません。


あすかの退部の問題そのものは、解決しないまま時間が流れてゆきます。

そしてここから久美子だけが紡げる物語が始まります。
なぜ久美子だけなのか?それはやはり

麻美子の存在

"ユーフォっぽい"

この2つだなと、TVシリーズから変わらず感じています。


麻美子の姿に有り得る未来のあすかを重ね見た久美子だけが、「先輩だってただの高校生なのに」と言えるのだと思いますし、
"ユーフォっぽい"久美子にだからこそ、あすかは久美子に話を聞いてもらおうと思ったし、あの河原で純真な笑顔を見せてくれた。

あの体育館裏での説得へ繋がってゆく鍵は、久美子だけが手に入れられた物だと感じます。

全国大会、そして物語の終着

そして久美子が紡いだ物語はあすかを全国大会へと連れて行きました。

劇場版における全国大会の演奏シーンは、間違いなくこの映画の最大の山場でしょうね。TV版ではカットされてしまった演奏シーンですが、この劇場版ではカットされるわけがない!
この全国の演奏は、あすかにとっても久美子にとっても、大切な人へ音を届ける大切な場でした。まさに「届けたいメロディー」。


中でも改めて良いと思ったのは、本番前の舞台袖のシーン。
久美子の「お姉ちゃんも来てるんです」というセリフに対するあすかの反応が、冷静ながらもとてもアツいです。

麻美子の事は当然知らないあすかですが、その"お姉ちゃん"が久美子にとってどんな存在なのかを肌で感じ取るわけですよね。久美子にも自分と同じく"届けたい人"がいるのだと、訊かずとも分かる。そして、頑張らなきゃね、と返し、意を決して舞台へ向かう…。
舞台袖ということもあり静かなシーンなんですけど、本当にかっこいい。言わずとも分かる、"阿吽の呼吸"に近いものを感じます。

演奏シーンは言葉にするのが難しいですが、ただ圧巻です。劇場版の"あすかの物語"としての側面も新規カットによって強調されていて、物語のクライマックス。
息を飲んで、7分間画面を見つめます。



そして演奏を終えると、久美子とあすかの物語がそれぞれ綺麗に終着を迎えます。


「ユーフォ、好き?」
久美子の物語は最初曖昧な答えから始まりましたが、今回ははっきりと答えを持っています。
その答えが芽生えたのは、きっとあすかのユーフォニアムの音があったから。


ずっと昔、父親から楽器とメロディーを受け取った時から物語は始まり、そしてついに自分の音を父に届けることができたあすか。
褒められて久美子に飛びつくあすかの姿は、小さい頃の純真な姿にそっくりです。
劇伴音楽も、物語冒頭に使われていた「響け!ユーフォニアム」のモチーフに回帰して、本当によかったなあと、一息つきます。

取り戻した原点

取り戻した原点


ほっと胸をなでおろせる、それぞれの優しい着地点。

また、「一本の映画として分かるように」という監督の言葉を再び思い出します。

別れのシーン、「始まりと終わり」の魅力

あすかから久美子へと、受け継がれる精神。
冬景色の中での別れのシーンは、TV版から変わらず優しい気持ちになれます。


その中でも、このシーンで流れる「始まりと終わり」という劇伴の魅力です。

始まりと終わり

始まりと終わり


前提として、この映画の劇伴では

弦楽器=あすかの気持ちに寄り添って
ピアノ=久美子の気持ちに寄り添って

という対応がついているようですね。*3

例えば冒頭のあすか幼少期のシーンでは、弦楽器が響け!ユーフォニアムのメロディーを提示します。一方で、体育館裏でのあすか説得シーンでは、久美子の説得に合わせてピアノソロが奏でられています。

幼き原点

幼き原点

想いが通じた瞬間

想いが通じた瞬間

二人の想いが重なる瞬間には弦とピアノが掛け合います。あすかの家から二人で水管橋へ向かうシーンなどが良い例でした。

並んだ同じ楽器

並んだ同じ楽器


さて、劇中このような積み重ねがあった上での、このあすかとの別れのシーンです。
上のような対応を考えると、やはり弦楽器とピアノの掛け合いで曲は進んでいきます。

あすかから久美子へと、想いが、音が、受け継がれる場面です。その象徴として、あすかのノートの受け渡しがありました。

ノートに二人の手が重なり、想いが渡るその瞬間、響け!ユーフォニアム」のメロディーが弦とピアノ両者によってユニゾンで奏されます。
弦楽器による"あすかの音"として奏じられるメロディーが今、"久美子の音"=ピアノと重なり、「響け!ユーフォニアム」の音色は受け継がれていく。

劇中での弦とピアノの棲み分けが、「始まりと終わり」のこの瞬間に向けて着々と積み重ねられ、そしてついに集大成として身を結んだ。そんな感じがします。
とても贅沢で、あまりに感動的な演出です。


しかしそのメロディーの重なりは儚く過ぎ去り、別れの時は訪れます。
「またね!」という一旦の別れを交わした後に一人残る久美子。やはりというべきか、弦楽器はフェードアウトしてゆきました。

そしてノートを開きその曲の題名を知るとともに、満を辞してピアノソロが暖かくも感動的に「響け!ユーフォニアム」のメロディーを再現し、物語は次へと進んでゆくのです。
しかしこれは単なる再現にはなっておらず、「始まりと終わり」では「響け!ユーフォニアム」のメロディーのリズムがこれまでと変化しているんですよね。*4

覚醒する仲間たち

覚醒する仲間たち

あすかのメロディーを受け継ぎつつも、そこに久美子の色が加わった新しい音が生まれているのだと、私はそのように受け取りました。

あすかの音を受け継ぎ、どんな新しい久美子に変わっていくのか。その片鱗は、小説の第二楽章を読んだことのある人なら、感じるところがあるのではないでしょうか。



そして、あすかから久美子へこの音が受け継がれるに至るための、大事なターニングポイント。やはり大切なのは、ラストシーンの河原での演奏ではないでしょうか。

ユーフォニアムという、二人を結ぶ共通項。ユーフォの奏でる「響け!ユーフォニアム」の音色こそが二人を繋ぎ、あすかの音(弦楽器)が久美子の音(ピアノ)へと受け継がれていったのだと、そう私は感じます。


こう改めて音楽的な流れでラストを見てみると、ラストカットに河原での演奏を持って来たことがすごくナチュラルに、説得力を持って響いてきます

セリフはなくても、音楽だけで良い。
弦楽器から、ユーフォニアムで繋がれ、ピアノへ届く。*5
二人を繋ぐのはユーフォニアムの音なんだよ、と。

なんとも美しい話です。

よい作品は何度見ても良い

ということで、再び感想を書いてしまいました。

最後に言いたいこととしては、見出しの通りです。

第1期の吹奏楽部色の色濃い感じもかなり好きなのですが、第2期のように、より青春ドラマにフォーカスしつつも、大事な所では音楽のパワーがものを言うというテイストもとても魅力がありますよね。

*1:当然後半の話の山は三日月の舞だし、ラストシーンもユーフォの演奏で閉めるという、最後まで要所を音楽で紡いでいくのが、とても好きです。

*2:パート練のシーンや合宿はTV版では4話以前に相当してました。

*3:舞台挨拶で監督が言われていたようです。

*4:響け!ユーフォニアム」のメロディーは、これまでは12/8(又は4/4?)拍子で現れていましたが、「始まりと終わり」では3/4拍子であるのが大きな違いです。

*5:弦楽器によって「響け!ユーフォニアム」の主題が演奏される曲は、「幼き原点」「覚醒する仲間たち」「取り戻した原点」などがありました。特に、映画冒頭に弦楽器による主題(幼き原点)を持って来て、映画最後部に弦とピアノのユニゾン→ピアノソロ→ユーフォソロと主題を異なる楽器で受け渡していく流れは、本当に綺麗としか言いようがありません。