【考察】アニメ「キルラキル」流子と蛇崩のバトルでの音楽演出の面白さを考えてみた
アニメ「キルラキル」第11話に見られた、”音楽と音楽がぶつかり合う”という面白い演出について考えた事をまとめてみた。
どういうアニメのどういうシーン?
「ああ、あのシーンね」とわかる方は飛ばしてもらって大丈夫です。
「キルラキル」とは
キルラキルは、2013年から2014年にかけて放送されたオリジナルアニメです。 原作はTRIGGER・中島かずきさん、監督は今石洋之さん。
こちらは第一話のリンクです。(以降話数有料)
キルラキル 第一話「あざみのごとく棘あれば」 アニメ/動画 - ニコニコ動画
第11話の問題のシーン~『サンビカ』と『運命』が押し合う~
今回話題にしたいのは、キルラキルの第11話、主人公である纏流子と、本能字学園四天王の一角である蛇崩乃音の対決でのワンシーンです。有料になりますが、この動画の06:30付近からの部分です。
キルラキル 第十一話「可愛い女と呼ばないで」 アニメ/動画 - ニコニコ動画
他のアニメ配信サイトに登録されている方は、もちろんそちらで確認いただいても大丈夫です。
文章でも、06:30からの話の展開をまとめておきます。
一旦は倒されたかと思った蛇崩が、「奏の装 ダ・カーポ」なる装備で復活を果たし、流子へと攻撃をしかけてくる場面からです。
その攻撃の内容というのは、ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』の音の波動を放出して音楽で攻撃するというもの。蛇崩本人の説明によれば共振現象を利用するとかなんとか。(正直よくわからん!)
アニメの映像にも、実際にベートヴェンの『運命』が鳴り響きます。
しかし流子が追い詰められたと思った瞬間、藍井エイルの歌う挿入歌『サンビカ』が流れ、それと同時に流子が体制を立て直します。
流子の相棒でもあるセーラー服「鮮血」と共に放った技「鮮血無拍子」により、蛇崩の『運命』の音の波動が押し返されます。犬牟田の説明によると音を純音に変換したとかなんとか。(正直よくわからん!)
ここからが本記事で注目したいシーンです。(10:25~)
蛇崩も四天王としての意地を見せ、再度『運命』の音によって流子の波動を押し返します。すると、『サンビカ』の音量がフェードアウトし、今度は『運命』の音量が大きくなってきます。
流子も意地のある主人公。 「全然聞こえねえよ!お前の音なんてなあ!!」 と言い放ち、再び波動を押し返します。これにはベートーヴェンも涙目。 するとこんどは『サンビカ』がフェードインしてくると同時に、『運命』の音量は絞られていきます。
するとまた蛇崩の意地が炸裂。 「この、、クソクソクソ◯ッチがあ〜〜〜!!!!」 ととんでもないセリフとともに、再び『運命』の音量が勝り、『サンビカ』はフェードアウトし流子の波動が押し返されます。
しかし最後はやはり主人公。すぐに『サンビカ』の音量が『運命』をかき消し、同時に流子の波動は蛇崩の波動をぶち破ります。これで勝負あり。片太刀バサミによって”戦維喪失”となり、勝負は流子の勝利に終わります。
このように、『運命』という音楽と『サンビカ』という音楽が、違いにフェードイン/アウトしながら”押し合い”をして、流子と蛇崩のバトルを描くという、とても面白いシーンに仕上がっているのです。
音楽演出の面白さを考える
音の分類 - 物語内の音と物語外の音
一旦話は変わりますが、アニメの中で鳴っている音はどのように分類できるか、を考えてみます。
ここでは音を、「物語内の音」と「物語外の音」の二つに分類する事を考えました。
「物語内の音」とは、その作品世界の中で実際に聞こえると考えられる音を指します。
例えばアクションものなら、剣と剣がぶつかるキィンという音や、登場人物の足が地面と擦れる音、また登場人物のセリフなどは、「物語内の音」と考えられるでしょう。
「物語外の音」とは、作品世界の中では鳴っていないが、アニメをみている我々には聞こえるような音を指します。
例えば、アニメに使われる劇伴音楽、挿入歌などは物語外の音に入るでしょう。(但し挿入歌でも、登場人物が歌ったりするものは、物語内の音になります。)
また、セリフはセリフでもナレーションなどは物語外の音に分類されるはずです。
物語内の音と物語外の音は、特殊な場合を除き、
基本的に同じ場所に共存する事はないはずです。
作品世界の中で実際に劇伴音楽が鳴っているわけでは無いですし、我々のいる現実世界で実際に剣と剣がぶつかって音を生んでいるわけではありません。
『サンビカ』と『運命』の分類と特異な点
この分類によって考えてみると、今回のシーンでは、
流子と鮮血のサイドの音楽である『サンビカ』は、歌手・藍井エイルさんが歌う挿入歌です。よって、物語外の音と言えます。
蛇崩のサイドの音楽である『運命』は、蛇崩の装備「ダ・カーポ」から、作品世界で実際に発せられている音です。ですからこれは物語内の音と考えられます。*1
これを考えると、『サンビカ』と『運命』は、同じ場所に共存し得ない二つの音であると考えられます。
しかしどうでしょう。この対決シーン、
この2種類の曲の音が、同じ場所に共存し、押し合っているように聞こえます。
フェードイン/アウトを交互に繰り返す二つの曲は、互いに干渉して影響を与え合っているように聞こえます。
バトルが起こっているのは作品世界の中で間違いありませんから、本来物語外の音であるはずの『サンビカ』が、物語内まで入り込んできて作品世界の中で『運命』と押し合っているような印象を受けます。
このように、本来作品世界では聞こえないはずの音楽が、物語の中にまで侵入してきてバトルに参加しているように見える演出がとても面白いと思ったのです。
演出の意図を考える
なぜこのような少しアクロバットな音楽の使い方をしたのか? を考えます。
これは単純に、闘志むき出しの流子と蛇崩二人の対決・対立をより強調する意図があったのではないかと思います。
二人の対決構図は、
- 二人の放つ波動のぶつかり合い
- 二人のセリフの応酬
などによって表現されていますが、ここに
- 二人の”テーマ音楽”のぶつかり合い
を足すことでさらに対決を強調していこうとしたのだろうと考えました。
蛇崩を表す音楽は、クラシックです。この事は、第5話や、第11話のバトル序盤ですでに提示されています。
クラシックからは、四天王としての優雅さ、余裕などが感じられます。
流子(と鮮血)のテーマは、『サンビカ』であり、ロックな音楽です。この話以前にも、流子と鮮血の絆が深まる第3話のシーンですでに『サンビカ』が流されています。ロックな感じの曲からはかっこよさやイケイケな感じが感じ取れます。
このように趣向が違うクラシックとロックの対比によって、蛇崩と流子の対立が煽られます。
流子と鮮血の「鮮血無拍子」から発せられる「純音」ではこのような対立は作れないため、音楽で蛇崩との対立軸をつくるためには、物語外の音であった『サンビカ』を物語の内へと引きずり込んで”攻撃”に参加させる必要があったと考えられます。
このように、わずか数十秒間の押し合いのシーンですが、そのほんのつかの間だけ、音楽が物語の外から内へと旅してやってきたような、そんな感覚にとらわれる面白いシーンだと思います。
しかし…
よく考えると、ここで一つの疑問が浮かんできます。
実際に『サンビカ』は物語内に入って来たのか?その音源は?
この数十秒のシーンの間、『サンビカ』は物語内の音としてふるまい、バトルに参加していた、という考えを正しいと仮定します。
「物語内の音」であるなら、必ず作品世界のどこかに音の発生源、すなわち音源の存在を認めてよいはずです。それは何か?
まず最初に考えられるのは次のような可能性です。
可能性1:鮮血無拍子の放つ波動
押し合ってるグレーの波動自体が『サンビカ』の音源となり、蛇崩の『運命』と押し合いをしている、という描像。
この場合、あの場にいたキャラクター全員に、『サンビカ』は聞こえていたという事になります。
しかし思い出すと、鮮血無拍子とは音を純音に変換する技であると解説されています。
純音とは…
純音(じゅんおん)とは、正弦波で表される音である。楽音(単音と呼ばれることもある)と異なり、基本周波数の整数倍の周波数成分(倍音)を一切持たない。自然界には存在しない。
出典元 : 純音 - Wikipedia
どう考えても”曲”にはならなそう…
これを考慮すると、跳ね返された純音の波動が『サンビカ』であるという考え方には無理がありそうです。
可能性2:流子の中に聞こえる音楽、”流子の音”
流子「お前は私の音だけを聴けばいい。」
鮮血「心地いいぞ。これが流子の音か。」
というバトル中のやりとりを見ても、流子の中に流れている音があることがわかります。
この場合、『サンビカ』の発生源は流子の体、そしてその音が聞こえているのは流子と鮮血の二人だけ、という状況が想像できます。いわば流子の内側にのみ流れている音楽です。
この解釈では、『サンビカ』と『運命』が押し合うシーンは、流子の主観・視点で描かれているシーンであるということになります。なぜなら、流子と鮮血以外には『サンビカ』は聞こえていないはずだからです。
『サンビカ』が、流子と鮮血の絆を強く表すシーンに使われているという事実とも、解釈が合う気がします。
しかし、
そもそも流子の音=純音じゃないの?
というツッコミがありえます。そして、犬牟田の技解説を信用する限り、これは的を射た意見とも言えます。
もしここで言う流子の音=純音なら、先ほどの可能性1と同様の理由で可能性2は却下となりそうです。
可能性3:仮定が誤り、入ってきていない
そう聞こえるだけで、実際は『サンビカ』は物語内へと侵入してきていないのかもしれません。 やはり物語内に、『サンビカ』の発生源たり得る物はない、という可能性です。
それではなぜ、まるで物語内の音かのように錯覚するかというと、物語内の音である「純音」と物語外の音である『サンビカ』が強くシンクロしているから、と考えられます。
作品世界の中で、あのバトルの場に響いているのは流子の「純音」でしょう。しかしアニメを見ている我々には、「純音」がどのような音かは聞こえず、代わりにテレビからは『サンビカ』が波動の押し引きに合わせて流れてきます。
映像に合わせて物語内の音をそのまま鳴らさず、代わりに物語外の音を強くシンクロさせる形で流すことで、本来物語内に存在できない音を仮想的に物語外から引きずりこんだように錯覚させられる
という可能性があるかもしれません。
今の場合、シンクロしている物語内の音と物語外の音は、それぞれ純音と『サンビカ』ということになるでしょう。
まとめ、課題
以上まとめると、
わずか数十秒間だけ、『サンビカ』が物語外の音から物語内の音へと性格を変えたかのように聞こえる音楽演出
これは流子と蛇崩の対立構図を強調するための演出と推測した
本当に物語内に音源があるのか、それとも演出による錯覚なのかは検討の余地あり
ということになります。
課題としては、そもそも「鮮血無拍子」がどういう技なのか?という点が疑問に残ります。「音源はどこにあるのか?」という問いに対する可能性をさらに検討する手がかりになるはずなので非常に重要なポイントだと思います。
ひとまず今回はこれまで…